はじめに――「水辺で心を解放する時間」を開催して

2025年11月23日、「水辺で心を解放する時間」という、小さなへらぶな釣り体験イベントを開催しました。
舞台は、田園地帯を緩やかに流れる一本の水路。微かに揺れる紅葉した草の色、遠くで水鳥が立てる波紋が広がる鏡のような水面――どこまでも穏やかで、日常から切り離されたような空気が漂う場所です。
今回のイベントは、へらぶな釣りの「釣果」よりも、釣りを通じて“考える時間” 、“集中する時間”を味わっていただくために企画しました。
お客様とマンツーマンで竿を並べながら、その時間にどんな気づきや変化が生まれるのかを大切にした2時間でした。
イベントの目的――“釣りを通して自分を取り戻す”という体験

へらぶな釣りは、年齢や経験を問わず、誰もが目の前の自然、そして自分自身と対話する時間を与えてくれます。
自分の前方の水面に漂う浮きの動きに集中し、状況変化に応じてエサの状態や着水点を調整するために手を動かし、自分が下した判断に従ってひとつひとつ試行錯誤を重ねる。そのプロセスそのものが、心を整え、思考のノイズを静かに削ぎ落としていきます。
今回のイベントで私が一番感じて欲しかったのは、「目の前のことに集中することで、日頃抱えている悩みから心が解き放たれる」感覚でした。
静かな水辺の釣り座に身を置き、釣れる・釣れないに一喜一憂するのではなく、“試すこと” 、“感じること”を楽しんでもらう。そんな体験を目指しました。
ミッドライフを迎える同世代の悩みに寄り添いたくて
私と同じ50代の世代は、心のどこかでモヤモヤを抱えやすい時期です。
長年に亘り、身を粉にして働き続けてきたことで蓄積された疲労感、時代の変化の速さに必死について行こうと奮闘する自分を横目に、若手世代が軽々と追い抜いていくのをどうすることも出来ない屈辱感。そして、出世の頭打ちや気力と体力の衰えが忍び寄ってくる。
ようやく子育てが一段落しようとしている矢先に、今度は老いていく親の介護の不安がちらつき始める家庭の心配――そんな状況の中で、知らず知らずのうちに、不甲斐ない自分を責めてしまったり、心の余白がなくなったりするものです。
私自身も長い間、「自分にはもう何の価値もないのではないか」と落ち込んだり、答えの出ない悩みに立ち止まる時期がありました。
そんな私を救ってくれたのが、野でへらぶな釣りをする時間でした。静かな野の釣り場に身を置くと、余計な雑念がすっと引いていき、ただ「今、ここ」に戻ってこられる。
そして、へらぶなが浮きを押さえた瞬間に、胸の奥から小さな喜びが湧き上がってくる。
その積み重ねが、自己効力感を取り戻すきっかけになりました。
この経験を、同じように悩む同世代の方に伝えたい。
そんな思いが今回のイベントにつながっています。
イベント内容の紹介――釣果を目的にしない2時間の集中体験

イベントのポイントは次の通りです。
- 2時間で気軽に楽しめるへらぶな釣り体験
- 釣果を求めず、“考える・試す”を味わうプロセス型の体験
- 道具やエサはすべてこちらで準備
- 初心者向けに、丁寧な基本レクチャー付き
- 私が並んで実演し、その場で学び→実践できる流れ
特に意識したのは、私があまり頻繁に手を出し過ぎないということです。ただ言われた通りのことをしたり、私が手取り足取り代わりにやってあげてしまったのでは、十分な気付きが得られないからです。
出来るだけ自分の頭で「こうしたらどうなるだろう?さっきはこうしたら失敗したから、今度はこういうやり方をしたらどうだろう?」と考えてもらう。
そのプロセスに没頭してもらうことが大切だと考えていました。
「学び→実践」の流れが生む、自分との対話の時間

釣りは、教わるだけでは身につきません。自分の手でエサをつけ、浮きの反応を見ながら微調整していく中で、はじめて「自分の釣り」が生まれます。
お客様のすぐ横で私も自分の釣りをしながら、冒頭の基本レクチャーでは説明しきれなかった場面についてはタイミングをみて補足説明をしました。
私の動作を見てマネをしても良いし、分からない時はいつでも気軽に声を掛けて質問していただくようにお伝えしました。
今回のお客様は、最小限の質問はされましたが、基本的に自ら考え、判断して試してみる、という自分の釣りに集中されていました。
自分の選択で試してみる。結果が出たら嬉しいし、うまくいかなくてもまた考える。
その繰り返しが、自然の中で深い“内省”の時間をつくっていきます。
体験の様子――静かな水路で生まれる小さな変化

当日の水路はとても穏やかで、風も弱く、まさに「心が休まる日」でした。
お客様は、感覚を掴むまではご自身が思うようなエサの付け方や振込みに至るまで試行錯誤されていましたが、10分、20分と時間が経つにつれて自然と馴染んでいきます。
浮きのわずかな変化に目を凝らすと、頭の中の雑念がすっと消えていく。会話も自然と少なくなり、ただ同じ方向を見つめる静かな時間が流れました。
こうした“沈黙の共有”こそ、自然の中で心が整っていく瞬間なのだと改めて感じました。
へらぶなが釣れる瞬間が教えてくれるもの

試行錯誤を繰り返したあと、浮きがわずかに押さえ込まれ、竿を立てると手元に伝わる重量感。その瞬間、参加者の表情が一気にほころびます。
へらぶなとの出会いは、ただ魚が釣れたという以上の意味を持っているように思います。
自分の手で考え、選び、試した結果が実を結んだ――その実感が、心の奥の自信を静かに揺り起こしてくれるからです。
「出来たという自信は次のステップに押し上げる原動力になるという事。 成功体験の大切さを痛感した。」
これはお客様の生の言葉です。
そんな小さな光が胸に灯る瞬間を、私自身とても嬉しく見つめていました。
終わってみて感じたこと――自然と向き合い、挑戦し、確かめられたこと

イベントを終えて感じたのは、
- 休みの日に家の中で過ごすだけでは決して得られない癒しが、自然の中に身をゆだねることで確かに得られる
- 簡単には釣れないへらぶなを相手に、自分で考え、試し、修正を重ねながら向き合い続けた先に、貴重な一枚を手にできたとき、その瞬間がより確かな達成感となり、自信へとつながっていく
ということでした。お客様の感想を通じて、その実感が私だけのものではなかったと確信できた一日でした。
おわりに――これからの「野こころ」が届けたい時間

私が目指しているのは、ただ釣りの知識や技術を教えるのではなく、自然の中で自分を取り戻す“心の居場所”をつくることです。
これからも、同世代の仲間たちがふっと肩の荷を降ろし、
「自分らしい生き方ってこういうことかもしれない」
と感じられる時間を届けていきたいと思っています。